12年の歳月をかけた慟哭のルポ、ついに発刊へ
―――――――増補改訂版『少年リンチ殺人』新潮文庫
ルポ「少年リンチ殺人」は、1997年から98年にかけて月刊「現代」で連載さ
れました。99年6月に講談社より発刊され、大宅賞に最終ノミネートされるも、
「もっと(本の厚さが)あったら」と言い出す新顔委員もおり、選評で「読ま
ないまま来ちゃった」ことがバレちゃったベテラン選考委員もいらして、なか
なか楽しい10年前の出来事でした。
最近出た『東欧革命1989』のような作品を今でも書ける選考委員がいたらな
あ、と思う今日この頃ですが、選考委員というのは作家生命を終えつつある老
人クラブの一種ですから、仕方ないのでしょう。なかには優秀な方がいるので
すが、そういう方は現役を優先してノンフィクションの選考委員になりたがら
ないのですね(沢木耕太郎さんなど)。
さて、雑談や楽屋話はともかく、このようなこと(選考委員が、5冊読むだ
けで100万円だかを貰いながら、ノミネートされた本も読まずに選考会に臨む、
という姿勢に怒ったのは先輩の黒沼克史さんでした。そのわずか数年後、黒沼
さんは亡くなりました。その葬儀のとき、私は初めて悔しい思いをします。
この本を必ず、もっと充実させて蘇らせてやる、と決意したのが葬儀の日の
ことでした。
タイトルこそ変わっていませんが、よく見ていただくと『少年リンチ殺人
――ムカついたから、やっただけ 《増補改訂版》』(新潮文庫)となってい
ます。
2行を書く裏取り(それが事実かを確認するため取材を続けて証拠を固める
作業)に2日かけたこともありました。加害者は総勢8人(第1部)、15人(第
2部)もいますから、それぞれの動きやその後の逃げっぷりや親の考えをすべ
て「謎解き」するのに、膨大なエネルギーが要ります。あたりまえなことなの
ですが、加害者の家の呼び鈴を押す私の手は、いつも震えていました。
売れない探偵のように、ずっとずっと長い時間、その家や職場の近くで、何
時間でも待ち続ける、ということの繰り返しです。少年鑑別所や裁判所や少年
刑務所には、何十回通ったか、もう数え切れません。
あのような取材は、あのときにしかできなかった、と思います。
たとえお金がなくてもエネルギーが充分に有り余っており、また「少年法を
変える」という15歳のとき誓った、その願いが叶うまで死ねないという思い、
という意味でも、そうしてまたお金がないとは言いながら、月刊「現代」のよ
うに取材費も原稿料も潤沢に用意してくれる媒体が残っていたという意味でも、
あの時期にしか書けなかったはず。「サンデー毎日」でも続編を書いたのです
が、当時は破格の取材費を出してくれました。今の若いライターが同じ取材を
するのは無理だ、と思います。
ネット取材は、できるでしょう。でも、すべての加害者と被害者の家族に
会って話を聞き、裏を取ってゆく、という作業を「仕事」にできなくなってき
た、というのは、この日本にとって幸いなことなのでしょうか?
もちろん逆に言えば、取材費がないならないで工夫のしがいがあるとは思い
ますが、多くの(ルポを掲載してくれる)月刊誌の終焉は、やはり大変な事態
を起こさせる(悪のやり放題になりかねない)という思いを抱かざるをえませ
ん。
あれだけのエネルギーを注ぎ込んで、たったの540円……。その安さに、
ちょっとクラクラしますが(笑)、気を取り直して親本を作ってくれた講談社
と、すぐ近くで再び起きたリンチ殺人の取材を勧めてくれた「サンデー毎日」、
また文庫化するに際して大幅の改訂と増補を歓迎してくれた新潮社に感謝しつ
つ、348ページの部厚さ(!)になった新刊をお届けします。発売は、1月28日
(木)の予定ですが、サイトでも、アマゾンでも予約販売しております。
第一部が、旧『少年リンチ殺人』と同じ。後半の第二部が「また少年が殺さ
れた」です。
解説は、学習院大学の飯田芳弘さん。私の文章でないので、むしろハッキリ
言えるのですが、実に感動的な解説。本当に脱帽です。
最近よく見かけるようになったダレ気味の解説に圧倒的な喝を入れるもので
あり、「こんな解説文は俺には書けない」という落涙もの。ぜひ、お読みいた
だければと思います。
完璧な構成、ぐいぐい読ませる過不足のなき解説、工夫に工夫を重ねて絞ら
れた、読みやすい文章、そして、本文に少しだけ垣間見えた筆者の心の動きを
末尾にもってくる、という心憎いまでの展開。
自分の本に書いてもらった解説をベタ褒めすること自体には多少のためらい
は生じますが、ぜひご自身で確かめてください。
最初の執筆から12年。ここに登場する被害者遺族や黒沼克史さんたちと一緒
に私たちは、あまりにも理不尽な(GHQの思いつきでしかなかった戦後つくら
れた)少年法を最低限改正することができました(殺人の審判でも、被害者側
の親すら出席することができないとか、刑法との矛盾とか、野放しではなく、
刑事的な処罰を考慮する機会を増やす、など)。
『少年リンチ殺人――ムカついたから、やっただけ 《増補改訂版》』
《目 次》
はじめに
第一部 少年リンチ殺人
第二部 また少年が殺された
解説 飯田芳弘氏(学習院大学教授)
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「ガッキィファイター」2010年01月24日号に掲載